天野秀二氏は、老舗の果物店、新宿高野の社長室長兼ギャラリー支配人を長らく務め、現在もフルーツ評論家として活躍されています。
フルーツが地上の宝石であるならば、宝石はまさに地中の宝石であるわけです。フルーツ専門店として新宿高野の発展に貢献した天野氏の戦略は、ジュエリー専門店の成長におおいに参考になることがあります。
<反すう ~考え方の原点>
過去を整理すると、さまざまなアイデアが出ます。昔の知恵や知識を現代風にアレンジして提案することが大切。「逆転の発想」で有名な組織工学研究所の所長だったロケット博士の糸川英夫氏は、「人間は老化する動物だ。だから、絶えず過去の出来事や覚えた知識を反復、反すうすることが大切。」と言っています。
<レポート>
「中央公論」に評論家の草柳大造さんが「専門店滅亡論」という論文を発表。近代小売業であるスーパーマーケットに押され、専門店や中途半端な店はどんどん整理統合されていくという論旨でしたが、天野秀二氏はそれに対抗して、「専門店不老長寿論」を展開。
『消費者が商品を購入する場合の価値観は、合理的価値と情緒的価値の二つ。「実」「美」の二極の価値である。貿易自由化によって目新しい舶来商品が上陸し、消費者が群がったとしても、それは一時の現象にすぎず、やがて賢明な消費者は、「実」と「美」を分けて求めるだろう。「美」を求める消費者のニーズに合わせるのが専門店である以上、専門店は不老長寿なのである』。
以上の見解は、まったく今のジュエリー業界に当てはまる現象ではないでしょうか。もし、海外有名ジュエリーブランドが「実」、持っていること自体が実質だとしたら、それに対抗するのは、専門店はやはり「美」を追求しなければなりません。
しかし、伝統に培われたヨーロッパの宝飾文化に対抗して、「美」を追求することは、並大抵の努力では成し遂げることは困難でしょう。ただ単に、ヨーロッパのジュエリーのものまねをしているようでは、日本の宝飾文化は育ちません。日本の消費者の感性に訴えるような作品を提案しなけれればなりません。例えば、江戸小紋や薩摩切子、日本独自の文様をアレンジしたジュエリーを提案する、漆、七宝、象嵌、打ち出しなどの技法を応用するなど工夫が必要です。
<新しい戦略>
天野秀二氏は、「フルーツ頒布会」を始めました。果物に情報という付加価値をつけて個性化を図ろうとしました。毎月、旬の果物とそれにまつわる物語をセットで宅配しました。名前は聞いたことがあっても、見たことも食べたこともない果物や、一度食べてみたいと思っていた果物などが毎月定期的に配達され、各家庭で喜ばれました。
「フルーツ倶楽部」は、産地へいって食べながら学ぼうという試食ツアーです。
ジュエリーでは、毎月、旬な宝石を頒布することは不可能です。旬な宝石というものがありません。毎月、誕生石を頒布することはナンセンスです。しかし、情報という付加価値をつけることは可能です。宝石にまつわる情報、歴史は調べればいくらでもあります。最新のジュエリー事情をお客様にはがきでご案内することも可能です。情報の発信をどうジュエリーの販売に結びつけるか、それが専門店の知恵です。
専門店は、今、攻めの経営が求められています。海外のジュエリー業界展には、今や多くの専門店のオーナーが視察に行っていますし、現地で買い付けをしています。過去、ヨーロッパのジュエリーショー視察は、日本では、メーカーや大手の卸業が主体でしたが、もうそういう時代ではありません。ジュエリー専門店は、海外の情報をいちはやくキャッチし、海外に飛び出る姿勢がなければ、この先発展は望めないのではないでしょうか。
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